団体交渉で時効は停まるのか

時効って気になりませんか。知らないうちに時効が経過して、請求しようと思ったら相手から時効を援用され、時すでに遅しとか。100万円の残業代があったと思っていたらゼロ円だったりする。労働紛争が長期化すると、とても気になることです。

弁護士も最初に確認するのはこれだということです。それに、私が相手にしていただいている会社側弁護士はその著書で、「残業代トラブルは時効をうまく活用する」とまで書いているので、なおさら安心できません。

さて、賃金債権は時の経過とともに時効消滅する。請求対象期間が2年以上あるときは、月給制であれば、毎月給料日ごとに1か月分が時効消滅していく。だから、時効の進行を停めないといけません。法律用語でいうところの「時効の中断」です(「時効の停止」では意味が違います)。すなわち、時効を中断させることによって、時効を最初から巻き戻す。賃金は時効が2年(2020年4月1日以降3年)、退職金は5年なので、最初の起算点に戻すということです。労組関係者としては団体交渉で時効がとまるのかどうかが重要です。


実は、このことについて、交通事故に関してですが、記事を書いたことがありました。


参考になるとおもわれますので、ここに一部を引用します。当該記事で

民法は時効中断の効果が生じるものとして3つの事由をあげている(民法147条)。

(1)請求
(2)差押え、仮差押え又は仮処分
(3)承認

 
の3つである。

と書いた上で、(1)は「催告」の意味しかなく、裁判所へ6か月以内に提訴しないといけない。そんなのよりも、より強力な巻き戻し効果のある(3)「債務の承認」について、「示談交渉」を例に書きました。「団体交渉」は「示談交渉」のアナロジーとして理解すればいいとおもいます。したがって、「示談交渉」を「団体交渉」と置き換えていただければいい。「団体交渉」は「示談交渉」の一つの場面だからです。


以下、引用。(ネットで調べてみると、示談交渉を「時効の中断」事由のひとつだと解説している弁護士もいるし、損保の担当者もそういう説明をすることがある。それは必ずしも正しくない。その理由です。)

内田貴「民法Ⅰ」で、改めて「債務の承認」の定義を調べてみた。すると、「債務の承認」とは、時効の利益を受ける者が権利者に対し権利の存在を認める「観念の通知」だと書いてあり、黙示のものでもよく、たとえば、一部弁済をするとか支払猶予を求めることをいう。さらに、債務の承認に時効の中断が認められるのは消滅時効の根拠が長年の権利不行使が権利の不存在を推定させる点にあるから、債務者の承認はその推定を破る意味を持つとあった。

したがって、上記の意味での債務の承認がある示談交渉なら時効は中断する。が、債務の承認でもない示談交渉なら時効中断には該当しない。すなわち、問題は、示談交渉という形式ではなくて示談交渉の中身にある。

たとえば最終示談交渉時に具体的な示談金額の提示があったとしよう。金額に争いがあったとしても加害者側が賠償債務自体を否定せず認めているような提示のされ方ならこれは債務の承認にあたる。しかし、そうではなくて、加害者側がすでに一定金額が支払済みであり、賠償義務はこれで完了したと主張し、加害者側が残債務の存在を否定しているような提示のされ方なら債務の承認にはならない。

全債務が弁済済みとの認識だから、残債務が存在する余地はない。債務など存在しないと考えているわけだから、ないものの承認などできるわけがないという考えである。したがって、示談交渉をしたというだけでは時効中断になるとは限らない。示談交渉が長引くようならこの点を注意していないと、知らないうちに時効が進行し、完成してしまったということになる。

債務の承認がある示談交渉なら時効は中断する。が、債務の承認でもない示談交渉なら時効中断には該当しない。すなわち、問題は、示談交渉という形式ではなくて示談交渉の中身にある。

このことがそのままそっくり団体交渉にもあてはまる。では「団交と時効中断に関する判例」をご紹介します。

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