目次
労災申請を闇雲にやっても
労災申請を闇雲にやってみたところで、それだと運任せである。もちろん、明白に労災認定されるケースも多いが、微妙なものも多い。上記ツイートで取り上げられている「過労死」もそうだが、「ストレスによる精神疾患」となると、因果関係がはっきりしないため、そのハードルはすごく高い。たとえば工事現場で作業中に骨折したのと比較したらわかることだ。
①事故との因果関係
②既往症との因果関係
③合併症との因果関係
④外傷にはなじまない疾病性の傷病(精神疾患も含む)との因果関係
①は論証が比較的かんたん(ただし、軽微事故は別)だが、②③に進むにしたがって難易度があがる。④は、特に医学的知識と経験がものをいう分野である。
労災認定で弁護士に任せる人が圧倒的に多い。が、彼らは司法試験に合格しただけであり、労災に強いわけではない。そこはシロウトと同じなのである。それで私はこういうツイートを返した。
弁護士に依頼する場合に注意すべきこと
私のとこへの相談も実はこれが多い。着手金目当て。もっとひどいのになると、事務員に一切合切やらせる弁護士法人。まあ、弁護士がやっても後遺障害認定の知識・経験があまりないから、事務員がやっても結論は同じなんだけれど、それでもこれは悪質である。が、こういうところへの仕事依頼が多いのが現実である。サイトに騙されるのである。
うちは後遺障害専門だと称し、それらしい記事を書き、医学書を並べ、依頼人の喜びの声まで紹介している。これだと騙されるなというのが難しい。で、あとはテキトウに処理され、運任せ。認定されなくても着手金だけは確保できる。
見破るひとつの手は、弁護士になった後の「経歴」をみることである。
「石川県合同ユニオン」は、労災相談を受け付ける
ということで、うちは労組でありながら、この種の相談も受け付ける。私の前歴は医療調査を主にしていた調査員だったからである。論より証拠、困った時は私に聞いてみたらいいよ(ただし、なんでもわかるわけじゃないよ。当たり前のことだけれど)。労働保険審査会で再審査請求の参考人として参加したくらいならあります。
何かえらそうなこと書いているけど、あんたの「実力」について何も書いてないやないか。そうやね。それで過去の相談を例にして書いた記事をここに引用したい。他にも(交通事故にかかわる)後遺障害に関する記事を別サイトでいっぱい書いているので、そちらも参考にしてください。
相談例
弟が会社から帰宅後、脳内出血で倒れ、右半身麻痺となりました。リハビリの結果、装具をつけ、何とか歩けるようになりましたが、言語障害が残り、リハビリに特化した病院に今も入院しております。以前も脳内出血で倒れており、今回が2度目です。
労災の専門家に労災の認定ができるかどうか相談したところ、脳内出血だし、帰宅後に発症したのだから、たぶん無理だろうと言われました。しかし、弟は朝の6時から出勤し、帰宅は午後10時を超えることがほとんどです。休みも月に2、3日しかありません。それでもやはり無理なのでしょうか。
労災における業務起因性
労災に該当するためには業務に起因していることが条件になります。したがって私病すなわち成人病や生活関連疾患は業務とは無関係のため労災に該当しません。
さて、今回の脳内出血という疾患についてですが、一見すると成人病や生活関連疾患に分類されるのがふつうです。外傷性であるものもないわけではありませんが、今回はそのような受傷機転に関する説明がありません。
脳内出血が外傷性かどうか
また、高血圧性の脳内血腫は通常は基底核という脳内でも深いところで起こるのがほとんどですから、仮に外傷性が原因だとすると基底核だけでなく、その周辺にも外傷性の変化(たとえば骨折だとか硬膜外血腫など)が認められると言われています。そのあたりはどうなのかということです。また、高血圧性脳内出血は再発しやすく、再発すればさらに症状が悪化する傾向が強いといわれており、今回の再発した脳内出血も高血圧性が強く疑われるようにみえます。
業務過重負荷が原因の可能性
さらに、発症したのが仕事場でもなく通勤途上でもなくて、帰宅後ということですから、ますます業務中あるいは通勤中という労災の外的要件から外れています。したがって、通常は労災が認められる可能性は相当に低い事例です。
しかし、例外がないわけでもありません。すなわち、帰宅後の発症であっても、ふだんの仕事が業務過重負荷があったことが証明されれば、たとえ高血圧性脳内出血であっても業務上疾患として認定されます。
今回は「朝の6時から出勤し、帰宅は午後10時を超えることがほとんどです。休みも月に2、3日しかありません」と、とてつもない激務です。過労死寸前にも見えるため、労災に該当する余地はあると思います(他の要件としては業務遂行性というのがありますが、外傷性脳内出血の場合に問題になるものの、今回は無関係です)。
具体的な要件については下記厚労省通達を参照してください。
仮に労災が認められなかったとしても、今回は2度目だし、1度目も会社が知っていてこのような激務を続けたということなら、会社自体にも従業員の生命・健康等の安全に対する配慮が足りなかったという民事上の問題があるように思います。