日本は解雇自由の国で、解雇規制など事実上ないに等しい

首切り

「日本の解雇規制は世界一厳しい」とかいう誤解

「日本の解雇規制が世界一厳しい」から解雇規制を緩めるべきだという声がある。それもかなりでかい声だ。そうしないと 「流動性が乏しい雇用慣行」なのだから、経済がうまくまわらないみたいなことを主張しているのを、いくつでも、かんたんにネット上で見つけることができます。「日本の解雇規制が世界一厳しい」って、本当でしょうか? 

私は専門家ではありませんが、解雇基準については整理解雇とそうでないばあいとがあることくらいは知っています。そして、「日本の解雇規制が世界一厳しい」が指す典型例は整理解雇なのでしょう。その解雇のための4要件、つまり会社の経営上の理由による人員削減のための解雇の場合は、会社側に解雇せざるを得ないことを立証するための4つの要件が定められています。その4要件を会社側が立証しないかぎり解雇できない。そのため、解雇することはかなり厳しい。

解雇の種類と整理解雇の4要件

解雇の種類

1.普通解雇

2.整理解雇

3.懲戒解雇

整理解雇の4要件

1.人員整理の必要性

2.解雇回避努力義務の履行

3.被解雇者選定の合理性

4.解雇手続の妥当性

それ以外の解雇についても、「あいつは協調性がない」からとか、「能力に欠ける」からとか、「不真面目だ」だとかで解雇された場合(いわゆる「普通解雇」)、そういう理由だけでは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」とされる(労契法16条)」。

「日本では、法律における解雇制限は、一連の差別禁止規定を除けば、労働能力喪失中の解雇禁止(労基法19条)と解雇予告の規定(同20条)が見られるだけで、きわめて貧弱であった。その空白を埋めるために判例が発展させてきたのが、独特の解雇権濫用法理である」。すなわち、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」とされる(労契法16条)。(西谷敏「労働法」P452-)

いや、厳しいんだなあ。これだと解雇なんて、おいそれと、かんたんにできたものやない。という理解になってしまいかねない。そして、それがこんなツイートとして現れる。Twitterで「解雇規制」で検索すると、こんなのばっかりなんだから嫌になってくる。

解雇規制緩和の大合唱

解雇規制を緩和すると、ブラック企業が淘汰されるんですかね。今以上に解雇規制を緩めちゃうと、解雇規制という労働者にとっての「最後の砦」を失って、ますます解雇が横行し、もうやりたい放題にならないのでしょうか。また、日本の失業率はOECD38カ国の低い方から2番目ってのも、ホントかよとおもいます。ここの「完全失業者」にはいわゆる休職者は含まれていないなど、国際比較には値しないという批判があるんだけれどね。

アメリカとの「完全失業者」の比較

参考に、これがアメリカとの比較です。

日本の「完全失業者」の定義がいかに厳格で狭い範囲のものなのかが、わかっていただけたかとおもいます。ちなみに、私はアメリカの定義だと「完全失業者」に該当しますが、日本の定義だと該当しません。これなら、日本の失業率が低いのも当然でしょう。こちらの記事も参考になります。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-06-05/QBE24VDWX2QD01

第一生命経済研究所の星野卓也副主任エコノミストは、休業者がすべて失業者に振り替わった場合、4月の失業率は11.4%になると試算。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、休業者を加えた不完全雇用率は11.5%、非労働力化した人も加えると12.6%に達すると推計する。

OECDではどう評価されているのか

日本の解雇規制は加盟国中の上位ではなかったというOECDの調査結果もあったはず…ということで調べてみた。濱口氏のブログに詳しい説明があった。一部引用しておきたい。

「日本が一番厳しいとOECDが言ってる」というのは明白なウソですが、ではそOECDの言っていること(日本の解雇規制はわりと緩い)はどこまで正しいかというと、現実よりも相当程度に厳格な方向に虚構のバイアスのかかった数字である可能性が高いようです。言い換えれば、日本の正社員の解雇規制は、OECDの言う「わりと緩い」というよりも、「もっとずっと遥かに緩い」というのが実態じゃないかと思われます。

日本は解雇自由の国

これまでの話は解雇された労働者が実際に裁判所に駆け込んだ場合です。が、現実問題として、不当解雇だとして裁判にする労働者がどれくらいいるのか。その実態は「氷山の一角」だとか言われていますが、これは正しくない。「氷山の一角のさらに一角」だといえるほどに、きわめて少数なのです。

濱口:この問題の根本は、日本の労働社会全体の中で、現に起こっている解雇等の雇用終了のうち、多くの人々が議論するときに念頭に置いている裁判例というものは、本当に氷山の一角に過ぎないということです。いやそれも正確ではありません。なぜなら、氷山というのは9分の1が水面上に出ているので、氷山の一角といえども結構割合は大きいのです。解雇の裁判例というのは氷山の一角などではなくて、そのまたごく一部に過ぎません。裁判所に訴訟として持ち出されるのは、世の中全体の解雇や雇用終了事案のほんの0.何%ぐらいです。しかも訴訟になったものの半分以上は和解で解決していて、半分以下がようやく判決にたどり着きます。

倉重:年間100件ぐらいですかね。判決まで行く解雇事件は。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kurashigekotaro/20190125-00111506

濱口:解雇が無効などというのは、本当に氷山の上にいるペンギンぐらいの話に過ぎません。なぜ解雇法制をめぐる議論がおかしくなるかというと、現実には氷山の上のペンギンまで行って初めて無効だという話になるからです。それを全部の、水面下の氷の大部分の所まで、解雇が無効であることを前提として、議論を構築しようとするから、おかしな議論になるのです。訴訟であれば、弁護士を立てて、裁判をやって、和解もせずに、最後の最後まで行って判決が出れば、労契法16条で無効だという話になります。しかし世の解雇の圧倒的大部分は、そんなところに行かないのです。ということは、解雇が無効であることを前提にした議論は、誠に観念的な話だということです。

現実は、裁判になることもなく、会社側が好きなだけスパスパ解雇し、労働者が泣き寝入りしています。実社会を経験していればこんなことなど常識のはずなのですが・・・。

その理由は、勝訴しても復職できるかどうかわからないことです。どっかの大企業のように賃金だけ払って職場復帰させない。あるいは、大中小の企業のように復職しても嫌がらせをする。そういうことが予想されるためにあえて裁判に持ち込むのは極めて少数です。それ以前に、解雇なのに自己都合退職させられる現実の多いこと。

労働局あっせん例にみる悲惨な現実

濱口桂一郎さんの「日本の雇用終了」(労働政策研究研修機構)という本では、

日本の雇用終了―労働局あっせん事例から (JILPT第2期プロジェクト研究シリーズ)

裁判よりお手頃な行政による救済である労働局あっせん事案を検討したものなのですが、日本の現実の労働現場では、まあ、悲惨なほど、首切りが横行していることがわかる。具体的な内容ですが、そのほんの一部をご紹介します。これが現実ですよ(「日本の雇用終了」やその続編「日本の雇用紛争」ではさらに詳しい内容が載っているそうです。

首切りなんてちょろいもの

・10185(非女):有休や時間外手当がないので監督署に申告して普通解雇(使は業務対応の悪さを主張)(25 万円で解決)
・10220(正男):有休を申し出たら「うちには有休はない」その後普通解雇(使は「業務態度不良」)(不参加)
・20017(正男):残業代の支払いを求めたらパワハラ・いじめを受け、退職勧奨(取下げ)
・20095(派男):配置転換の撤回を求めてあっせん申請したら雇止め(不参加)
・20159(派男):有休拒否に対し労働局が口頭助言した直後に普通解雇(不参加)
・20177(派女):出産直前に虚偽の説明で退職届にサインさせた(不参加)
・20199(派女):妊娠を理由に普通解雇(不開始)
・30017(正女):有休申請で普通解雇(使は通常の業務態度を主張)(打ち切り)
・30204(非女):有休をとったとして普通解雇(使は当日申請で有休と認めず欠勤と主張)(12 万円で解決)
・30264(非女):有休を請求して普通解雇(使は当日申請で業務に支障と主張)(6 万円で解決)
・30327(非女):育児休暇を取得したら雇止め(使は力量劣るためと主張)(30 万円で解決)
・30514(非男):労基署に未払い賃金を申告したら雇止め(使は事実でないと主張)(不参加)

注 正男は正社員・男の意味。非女は非正規・女の意味

濱口桂一郎さんのブログ「解雇するスキル・・・なんかなくてもスパスパ解雇してますけど」から引用http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-a1c3.html

「日本の雇用終了」の前書きからさらに引用します。

過去10年間にわたって、解雇を始めとする雇用終了を巡る学問的および政策的議論はかまびすしく行われてきたが、その議論の素材がややもすると裁判所に持ち込まれ、解雇権濫用法理に基づいてその効力が判断された限られた事案に偏っていたため、労働法学者にしても、労働経済学者にしても、「現実の日本の労働社会において解雇は厳しく制限されている」という固定観念に基づいて論じられてきた嫌いがないとは言えない。また、その認識を前提にして、とりわけ規制緩和論者から「解雇規制は日本社会に由々しき歪みを構造的にもたらしている」といった批判も繰り返しなされてきた。


しかしながら、現実の労働社会においては、時間と費用のかかる裁判に持ち込まれないような膨大な数の解雇その他の雇用終了事案が発生している。その圧倒的大部分は世に知られることのないまま消え去っているが、今回研究の対象とした労働局の個別労働関係紛争あっせん事案は、その実態をかなりの程度リアルに伝えており、裁判所の判例法理のみに基づいて日本の現実を論ずることの歪みを正すという観点からも、貴重な情報を提供してくれている。

その結果、日本における労働現場における首切りの実態について、以下のように要約する。

①「態度」の重要性:
雇用終了するかどうかのようなぎりぎりの段階において労働者の適性を判断する最重要の基準がその「態度」にあり、言葉の上では「能力」を理由に挙げているものであってもその内容を仔細に見れば「態度」がその遠因にあるものが多い。その内容も上司や同僚とのコミュニケーション、協調性などが問題とされるなど職場の人間関係が重要な意味を持ち、また権利行使や社会正義の主張などの労働者の発言も悪しき「態度」の徴表と見なされて雇用終了の理由となっている。

②「能力」の曖昧性:
雇用契約の本旨からすればもっとも典型的な雇用終了理由となるはずの「能力」はあまり多くない上に、抽象的かつ曖昧で、具体的にどの能力がどのように不足しているか明示されておらず、むしろ主観的な「態度」と客観的な「能力」が明確に区別されず、一連の不適格さと認識されている。

③「経営」の万能性:
多くの中小企業では、経営不振という理由を示すだけで極めて簡単に整理解雇が行われており、経営不振は雇用終了における万能の正当事由とさえいえる。表面上は経営上の理由を挙げながら、真に経営上の理由であるか疑わしいケース(表見的整理解雇)の存在も、これを側面から立証する。

④職場環境の劣悪化:
一方、どの程度近年増加した現象であるか明らかではないが、いじめ・嫌がらせに典型的な職場環境の劣悪化が自己都合退職など広い意味での雇用終了事案の大きな要因を占めている。

解雇はかんたんにできる

不当解雇だとの立証責任が労働者側にあること

解雇された側がそのことが不当であること、事実でないことを立証しなければいけない。そのため、解雇を撤回させるためのハードルはすごく高い。そのことがどれほど不当だったとしても、実際に、従業員で彼のために証言してくれる者など、期待するほうが無理です。

異動命令で飛ばしちゃえ

また、大企業だと異動命令を発すればいい。遠いところに飛ばしてしまえばいい。異動命令拒否は懲戒解雇だってありえる。実際、おれなんか沖縄に飛ばすぞと、会社側弁護士に言われた。これだとふつうは辞めるしかないだろう。

海外に飛ばすぞと仮に言われたら。おれってバックパッカーやったから、いっそ飛ばすならニューギニアにでもどこでも飛ばせよと、その時思った。そんな夢想をしたら、会社側弁護士から笑っている場合じゃないでしょと。そんなしだいで、日本は解雇がかんたんなわけですよ。異動命令が有効だとする判例が圧倒的に多い。

「配転命令の効力が広く肯定されてきた背景には、解雇が厳しく規制されていること(労契法16条の解雇権濫用法理)とのバランスで、企業内の配置は柔軟に認めようとする考え方がある」https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/06/50.html

最初から個人事業主として契約する

こうしておけば解雇する必要さえない。契約を切ればいいだけだから。残業代も支払わなくていいし、社保にだっていれなくてもいい。こういう契約が今多い。現に、組合員のIさんがそうだった。仕事の内容は従業員とまったく変わらんのに。

ただし、労基法上の「労働者」は、雇用契約を前提にしていないから、ブラック企業の目論見通りにいくとはかぎらない。

制度と空気。その両輪があってこそ機能しうる

ある制度が世の中で機能するためには、制度があるだけではだめです。法律でどれほど解雇が制限されていても、それを遵守する空気が世の中にないと、ただの絵に描いた餅です。

制度と空気。それが両輪があってはじめて世の中で機能するのだと思います。日本には「それなり」の「制度」はあるものの、解雇は許されないという「空気」がないのです。解雇規制緩和論者は、「制度」だけ見て「空気」が存在しないことに気づかないアホどもですね。

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